生活費をくれない夫は経済的DV?|離婚理由として認められる条件と裁判例【弁護士による事例解説】

更新日:2025/6/19 公開日:2025/6/19

はじめに

夫婦が共同生活する際、お金の管理をどのようにするかは、夫婦の話し合いにより自由に決めればよい問題です。しかし、たとえば夫が専業主婦の妻に生活費を渡さないとか、夫婦の収入全体を管理している夫が自分の生活のためだけにそれを使い妻に生活費を渡さないのは問題です。

今回は生活費を渡してくれない夫との離婚問題について解説します。

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生活費を渡さないのはDVに当たる?!

DV(ドメスティック・バイオレンス)とは家庭内暴力を意味する言葉であり、この言葉からイメージされるのは、夫が妻に対して日常的に理由なく、あるいは些細なことから暴力を振るうというものかもしれません。
しかし、最近では、DVには肉体的暴力だけでなく、罵詈雑言を浴びせるなどの精神的暴力や生活費を渡さず相手を経済的に追い詰めるなどの経済的暴力も含まれるという考え方も一般的になってきています。

経済的DVを理由に離婚する場合の注意点

経済的DVを理由に離婚できるの?

離婚には合意による方法(協議離婚・調停離婚)と裁判による方法(裁判離婚)があります。
そして、裁判離婚するには民法の定める離婚事由のあることが必要となります。

この点、民法は不貞行為のように経済的DVが離婚事由になると明記してはいません。
しかし、経済的DVは抽象的離婚事由の「婚姻を継続しがたい重大な事由」を認める事情の1つになるものです。
なぜなら、夫婦間には生活保持義務(自分と同程度の生活を配偶者にも保持させる義務)があり、経済的DVはその義務に反するものであり、夫婦関係を破綻させ得るほど重大な問題だからです。

離婚に伴う金銭的(財産的)請求の問題

夫の経済的DVにより離婚に至った場合には、離婚慰謝料、財産分与、離婚後の養育費などの金銭的・財産的請求について考えなければなりません。
この点、経済的DVの加害者になるような夫であることから特に2つのことに注意しましょう。

第1は夫が夫婦の共有財産を隠匿しているかもしれないということです。生活費を渡そうとしない夫ですから、財産分与として妻に金銭や財産を渡したくないと考える可能性は大いにあります。ですから、同居中に夫の管理している夫婦の共有財産について探索・特定しておきましょう。

第2は夫の支払能力の問題です。生活費を渡さない夫の中にはギャンブルや浪費のために夫婦のお金を使い果たしてしまう者が少なくありません。このような夫に対して離婚慰謝料や養育費を請求したとして、実際にそれを払うだけの能力がなかったり、あるいは能力はあるがギャンブル等による散財のため履行してくれないリスクがあります。このようなリスクに備え、金銭の支払については公正証書を作成したり、また将来の強制執行に備え勤務先や所有する不動産などの財産を把握しておくことが大切です。

経済的DVを婚姻関係破綻の重要な要因の1つとして認めた裁判例

判旨

既に別居開始から2年以上経過し、その間、原告(妻)と被告(夫)間に夫婦としての実態もなく、現時点では既に、双方とも相手方に対する不信感が強いことも伺われることや、別居中とはいえ、被告が原告に対し、生活費等を一切渡すことを拒み、その生活の扶助を顧みない現状からすれば…婚姻を継続し難い重大な事由がある。
被告は給与収入があったというにもかかわらず、原告及び子らの生活のために必要な婚姻費用の分担をしようとせず、婚姻費用分担の決定がなされてもなお支払を拒んでいる態度は、原告及び子らの生活の扶助を顧みないものというよりほかない。被告のかかる行動は、婚姻破綻を決定づける重要な要因の1つとなっている。被告が原告に対して負うべき慰謝料として30万円を相当と認める。(東京地方裁判所平成16年3月29日判決)

解説

本件は、婚姻当初より収入の不安定な夫に不満を募らせた妻が十分な話し合いなく子を連れて実家に帰省して別居を始めたところ、夫は別居後、給与収入があるのに、妻に対して生活費を全く渡さなかった事案です。

裁判所は夫の行動は婚姻破綻を決定づける重要な要因の1つであるとし、他の事情と併せ離婚事由があるとし裁判離婚を認め、また夫に対して離婚慰謝料30万円の支払(過去の不払の婚姻費用の請求は別問題)を命じました。なお、慰謝料が30万円と低額になっている点につき、裁判所は妻が事前に十分話し合うことなく子を連れて別居した行動に一方的な点も認められるなども考慮すれば、と説示しています。

なお、子らの親権者は別居後継続して育児に従事してきた妻が指定されているところ、裁判所は妻の経済力が夫と比べ乏しい点は養育費の負担において考慮すべきものであり、その点をもって妻が親権者として適格でないということは相当でないとしました。

弁護士弁護士のワンポイントアドバイス


夫が妻に生活費を継続的に渡さないことにより経済的に追い詰める行為は経済的DVに当たり、それは夫婦間の生活保持義務に反するものでもあります。

そして、経済的DVは離婚事由である「婚姻を継続し難い重大な事由」を認めるための事情の1つになります。

生活費を渡さないような夫は夫婦の共有財産を隠匿したり、ギャンブルや浪費により養育費を払わなかったりするため、財産分与や将来の強制執行に備え、できる限り、離婚前に夫の勤務先や夫名義の財産を把握しておきたいところです。

さいごに

金の切れ目は縁の切れ目という言葉があるように実際、夫が生活費を渡さないために夫婦関係に不満を募らせた妻が離婚を考えるケースは少なくありません。
夫が生活費を渡さないため経済力に乏しい妻が身動きが取れなくなり経済的にも、精神的にも追い込まれてしまう場合には、ひとりで悩まないでとにかく早めに弁護士に相談しましょう。

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