配偶者の浪費は離婚や慰謝料請求の理由になるか

婚姻生活において、配偶者の金銭感覚に不満や不安を抱くことは少なくないと思いますが、例えば高額なものを繰り返し購入したり、ギャンブルやゲームの課金を繰り返したりする等、その程度によっては離婚を検討する方もいるでしょう。

それでは、配偶者の浪費を理由に離婚や慰謝料請求をすることはできるのでしょうか。本稿では、裁判例を紹介しつつ、配偶者の浪費と離婚・慰謝料請求の関係について解説します。

配偶者の浪費で離婚や慰謝料請求を考えた場合

離婚が認められるためには、「婚姻関係が破綻していること」が必要になります。そして、その破綻の原因が一方の配偶者にある場合には、他方の配偶者からの慰謝料請求が認められることになります。

したがって、浪費行為のみによって離婚や慰謝料請求が認められるためには、単に「お金の使い方に不満・不安がある」というだけでは足りず、配偶者の浪費行為によって婚姻関係が破綻に陥ったと言えるほど重大なものである必要があります。

ここでは、実際に、配偶者の浪費が原因で離婚・慰謝料請求が認められた裁判例をご紹介します。

〈裁判例の紹介〉

奈良家裁 令和元年11月12日判決

  • 事案の概要

原告が被告に対し、被告の浪費行為によって婚姻関係が破綻したと主張し、離婚、慰謝料の支払い等を求めた事案。a社は原告の祖父母が経営していた会社であり、被告がa社の代表取締役となっていたが、平成25年12月に退任している。

  • 判示事項

「上記認定事実によれば、原告と被告の婚姻関係は、被告が家計を管理していたところ、被告は本件マンションの売却代金から原告が取得した約2236万円のうち…1300万円を引き出して使用し、原告が平成28年9月に調査した際には残高は概ねゼロ円であったこと、また、被告はa社の通帳などを管理し自由に入出金をしていたが、原告が度々上記通帳の返還を求めたもののこれに応じず、平成28年9月に返還した際には預金残高は約250万円であった…。」
「平成26年1月以降の収入は、概ね原告の月額8万円の役員報酬のみであったにもかかわらず、被告は上記1300万円のうち税金の支払に充てた約330万円及び原告に渡した100万円を除く 約870万円を平成27年2月までに費消したこと、また、被告は本件マンションを売却して間もない平成25年8月に代金約463万円をa社の預金から支払って自動車を購入しているが、 実質休眠会社であるa社にとって自動車は必要のないものであること、被告はa社の預金も自由に引き出し、500万円を証券会社に送金して取引を行ったり、生活費に充てるなどしたものも含め 1500万円近くの預金を使用したこと等に鑑みると、被告の金銭の使用状況は通常の生活で必要な範囲を相当程度超えるものといえ、その行為は夫婦の信頼関係を損なう重大な要因となるものであり、 原告と被告の婚姻関係が破綻した主たる責任は被告にあるというべきである。これにより、原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては、100万円が相当である。」(下線筆者)

〈判断のポイント〉

この事案では、配偶者の浪費が非常に大きな金額であり、かつ通常の生活で必要な範囲を相当程度超えるものであることから、離婚及び慰謝料請求(100万円)が認められています。

しかし、実際には、上記の裁判例のようにかなり高額で、通常の生活で必要な範囲を相当程度超える浪費行為があるという場合は多くないと思われます。

どこまでの浪費があれば婚姻関係破綻の原因とまでいえるかはケースバイケースですが、浪費行為のみでこの原因に当たるとまで判断されることは稀だと思われます。

したがって、浪費行為だけではなく、婚姻関係の破綻を補強する要素として、不貞行為等の異性関係があったこと、DVやモラハラ的な行為があったこと、家事・育児への協力をしなかったこと等を併せて主張していくことが必要になります。

また、浪費行為とその他の事情を考慮しても、婚姻関係が破綻していないと判断された場合、離婚請求も認められない可能性もあります。

家庭裁判所においては、婚姻関係の破綻を判断する際に別居の期間や別居に至るまでの経緯を重視されていますので、別居を検討することも必要となります。

離婚前に別居をした場合、財産分与の対象となる財産を判断する基準も別居開始時となることが一般的です。そうすると、別居することによってその後の浪費行為が財産分与額に影響しなくなるというメリットもあります。

また、別居を開始する際には、婚姻費用分担請求が認められる場合がありますので、併せて検討する必要があるでしょう。

〈注意点〉

浪費行為がある場合、慰謝料や財産分与の請求が認められるべき場合であっても、相手方配偶者にみるべき財産が残っていないというケースも考えられます。

仮に裁判所の判断として請求が認められたとしても、現実的には回収できないというリスクもありますので、注意が必要です。
場合によっては、財産をあらかじめ処分できないようにするために、保全の手続きを行うことも考えられます。

〈終わりに〉

配偶者の浪費と離婚・慰謝料請求の関係について、実際の裁判例を紹介しつつ見てきました。

度を越えた浪費が離婚・慰謝料請求の原因になることもある一方で、浪費だけではこれらの請求が認められることは難しいというケースも少なくないと思われます。

名古屋総合法律事務所では、離婚についての法律相談を受け付けています。
配偶者の浪費等でお困りの方、離婚について真剣に考えている方は、一度ご相談ください。