自分の相続分を上回る生前贈与を受けた相続人に寄与分がある場合

遺産分割では、原則として、被相続人の遺産を各相続人が法定相続分にしたがって取得します。

しかし、各相続人の公平の観点から、これらを修正する制度が用意されています。 一つが特別受益、もう一つが寄与分と呼ばれるものです。

これらの制度については特別受益とは、及び寄与分とはをご覧ください。

超過特別受益

特別受益は、これを持ち戻したとしても各相続人に具体的相続分(特別受益による修正後の相続分)が確保されている場合、特に問題となりません。

一方で、具体的相続分を超過する生前贈与を受けている場合(超過特別受益といいます)、その相続人の取得分はマイナスとなってしまいます。

このマイナスになった分については、(他の相続人の遺留分が侵害されている場合は別として)、他の相続人に返還する必要はないものと考えられています。

したがって、他の相続人は残っている遺産を分割して取得することになります。

超過特別受益と寄与分

それでは、超過特別受益者が、被相続人の生前、療養看護に努める等して、寄与分が生じている場合は、どのような処理になるのでしょうか。

この場合、前提として、特別受益と寄与分が、いずれも適用されることについては共通の理解になっています。

そして、問題となるのは、どちらを先行して適用するのかという点です。

特別受益を先行して適用する場合、超過特別受益者であっても、遺産から寄与分に相当する部分の財産を取得できることになります。結果として、寄与分は特別受益の額とは関係なく、確保されることになります。

寄与分を先行して適用する場合、寄与分を含めた取得額から特別受益を控除することになります。超過額が寄与分の額を超えている場合、超過特別受益者は遺産を取得することはできません。

この点について判断をした裁判例がありますので、紹介します。

裁判例 東京高裁平成22年5月20日判決

遺産分割にて、相続人の一人が被相続人の生前に自らの相続分を上回る贈与を受けており、かつ、寄与分も認められる事案において、裁判所は以下のとおり判示し、特別受益を先行して適用すべきとの立場に立脚して遺産の分割内容を定めました。

『寄与分は、あらかじめ寄与分を控除した前記した分割対象財産をみなし相続財産としてこれを基礎にして具体的相続分の比率を定めるものであることにかんがみれば、寄与分の割合を認定された相続人に係る超過特別受益の存在によって同人の具体的相続分が零になったとき、同人の上記寄与分の価額から更に超過した特別受益の部分の価額を差し引いて減少させて調整することは、すでに遺産分割及び寄与分に係る事件に顕れた一切の事情を総合勘案した上で裁判所により認定判断された寄与分の割合を重ねて修正するに等しく、これは民法903条と同法904条の2の各立法趣旨に照らし、寄与分と特別受益はその本質を異にすることが明らかである以上、改めて修正を施し直す理由は一般的にはやや分かりにくく、また、分割の手法としても迂遠さを残すものと解されるので、むしろ、なお重ねて控除しなければ著しく合理性を欠くというべき格別の事情が存在するというのであるならば、あらかじめこれを勘案して寄与分の割合を定めることが相当であると解される。』

判断のポイント

裁判所は、寄与分を先行して適用する場合の計算方法の問題点を挙げたうえで、特別受益を先行して適用する方法を採用するものと判断しました。

仮に寄与分を先行して適用する場合、一度寄与分を算定したうえで、遺産から寄与分に相当する額を控除して具体的相続分の比率を決定したうえで、その後超過特別受益がある場合には寄与分から差し引くという処理をすることになります。

しかし、これは一度算定した寄与分から超過特別受益分を改めて差し引くという二重の処理をすることになるため、理解しづらいこと、方法として回りくどいということを指摘して適切でないと判断しています。

また、裁判所は、特別受益を先行して適用する場合であっても、仮に寄与分から超過特別受益を二重に差し引くべきといえるような事情がある場合には、初めからその事情を考慮して寄与分を定めることが相当であると判示しています。

これらの点からすると、上記裁判例は、立場としては特別受益を先行して適用する説に立脚しているものの、超過特別受益の内容を含めた諸般の事情を考慮して寄与分を認めるべきか否かを判断する必要があると考えていると理解できます。

この理解を前提とすると、どちらの立場に立脚するかはあくまで理論的な問題であり、遺産分割の結論に大きな差異はないと考える余地もあるように思われます。

なお、上記は高裁レベルの判断であり、今度同様の事案において必ずしも同じ立場に立脚した判断がなされるわけではありませんので、注意が必要です。

おわりに

本稿では、同一の相続人に超過特別受益と寄与分の双方がある場合の遺産分割の方法について判断した裁判例について述べました。

調停段階においては、同一人に特別受益と寄与分の双方がある場合、これらを相殺するような形で取得額を調整して調停を成立させることが考えられ、実際にそのように処理をした事例もありました。

しかし、そのような判断をするにあたっては、裁判所がどのように判断すると考えられるかを検討しておく必要があるでしょう。

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