肉体関係を伴う不貞行為の立証ができなくても、慰謝料が認められますか?

 慰謝料請求の対象となる不貞行為とは、配偶者(婚約者や事実婚を含む)の一方が、配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係をもつことを意味します。
 そのため、確実に慰謝料を請求するためには、配偶者と不貞相手との間に肉体関係があったことの証拠をつかむ必要があります。

 理想的な証拠としては、ホテルや自宅に長時間滞在したことが分かる写真や動画に加え、二人の親密さを表すメールのやり取りや手をつないで歩いているところの写真などの組み合わせになるでしょう。

 しかし、配偶者の疑わしいメールのやりとりを見つけた段階ですぐに配偶者を問い詰めた場合や、興信所を利用したが、ホテルに入ることなくデートのみで帰宅した場合、外部から見えない状態で自動車に長時間滞在していた場合など、直ちに不貞行為があったと認定してもらうには、証拠が弱いと思われる場合があります(これらの場合にも証拠の組み合わせ次第という場合もありますので、あきらめずに弁護士に相談してみましょう)。

慰謝料が認められるには

 では、肉体関係を伴う不貞行為の立証ができなければ、慰謝料は認められないのでしょうか。

 回答としては、「肉体関係を伴う不貞行為の立証ができなくても、慰謝料が認められる場合があります。」ということになります。

 不貞の慰謝料請求は、夫婦の婚姻共同生活の平和の維持という権利を侵害した場合に認められますので、肉体関係があったことの立証ができなくても、つかんだ証拠から立証できる事実が、社会的に許容できる範囲を逸脱し、夫婦の婚姻共同生活の平和の維持を侵害したと認められる場合には、慰謝料が認められることになります。

もっとも、不貞行為の完全な証拠がなくても慰謝料が認められる事案には、次のような特徴があることが多いです。

①肉体関係があったことを疑わせるような証拠の存在
→不貞行為の立証とまではいかなくとも、不貞行為があったのではと思わせられるような証拠であればあるほど慰謝料が認められやすい傾向にあります。

②その事実によって、婚姻関係が破綻したこともしくは破綻に瀕したこと
→慰謝料が「夫婦の婚姻共同生活の平和の維持という権利を侵害した」ことを理由としていますので、配偶者との同居を継続している場合には、婚姻関係への影響が少なかったものとして、慰謝料が認められにくい傾向にあるといえます。

慰謝料が認められた裁判例

以下、肉体行為を伴う不貞行為の立証ができなかった場合に慰謝料が認められた裁判例をいくつかご紹介します。

①相当に疑わしい行為があった事案

東京地方裁判所令和5年9月28日
認容額:80万円

  • 原告 Aの夫(警察官)
  • 被告 (私立高校の牧師・既婚者)
  • A  原告の妻(私立高校の牧師)

→ 令和3年12月頃 原告が離婚を決意
→ 判決時点で、原告とAは別居

認定された事実関係

・令和元年5月23日、原告である夫が、自宅に男性用の洗面用具が置いてあるのを発見したことから、夫婦が居住するマンションのゲストルームを妻Aが月に複数回利用し、同僚の男性を宿泊させていたことが判明した。

・被告が、原告宅にAの誕生日の翌日に、Aへのプレゼントとしてネックレスを郵送した。

・令和2年3月28日、原告と被告が被告の職場の上司を交えて面談した際、被告は、原告宅を月に1回以上訪れシャワーを使用したことがあることやゲストルームに宿泊していたことを認めて謝罪した。

・被告及びAは、一貫して肉体関係を否認

上記事実関係について、裁判所は、肉体関係を伴う不貞行為までは認定することができないとしたうえで、次のとおり認定しました。

本件は、不貞相手が、不貞配偶者の自宅でシャワーを浴びたりゲストルームに宿泊までしていたことから、不貞関係が認められる可能性もあった事案ともいえますので、慰謝料が認められたのは当然ともいえます。

裁判所の判断

 夫婦の一方と肉体関係を持つことが、他方配偶者に対する不法行為となるのは、それが夫婦の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからである(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号993頁参照)。

 そうすると、夫婦の一方と肉体関係まで持たなかったとしても、夫婦の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為をした場合には、不法行為が成立するというべきである

 本件について検討すると、前記認定事実(1)ないし(8)のとおり、被告は、平成30年6月以降、月に1回以上の頻度で原告宅でAと二人きりで過ごし、その際に原告宅のシャワーを浴びたり、Aの予約により原告宅のマンションのゲストルームに複数回宿泊していたことが認められる。

 社会通念上、配偶者の留守中に、自宅に第三者が出入りしてシャワーを浴び、一方の配偶者と二人きりで過ごすということ自体、不貞行為を疑われることが明らかな行為といえ、これを知った他方配偶者は、配偶者と第三者との不貞を疑い、嫌悪感、不信感を抱くのが通常である。

 ましてや、被告は、一度のみならず、数か月以上にわたって、月に1回以上の頻度で原告宅でAと二人きりで過ごし、その際に原告宅のシャワーを浴びたり、また、原告宅のマンションのゲストルームに複数回宿泊していたのであるから、原告とAとの婚姻共同生活の平和を侵害する行為を行ったものと認められる

 そして、前記認定事実(11)及び(13)のとおり、被告とAの上記行為により、原告はAに対する不信感がぬぐえず、その後の婚姻関係の修復も困難となり、離婚を決意して別居し、Aとの共有財産である原告宅もAとともに売却するに至っている。

 以上によれば、被告とAの上記行為により、原告とAとの婚姻共同生活の平和が侵害されて、婚姻関係が破綻し、原告は精神的苦痛を被ったと認められるから、不法行為は成立するものと認められる。

 そして、被告の原告宅への訪問期間及び頻度、原告とAの婚姻関係が破綻に至ったことその他本件にあらわれた一切の事情に照らせば、被告がAと性行為をしたとは認められないことを踏まえても、原告に対する慰謝料額は80万円と認めるのが相当である。

②LINEのやり取りが不法行為に当たるとされた事案

東京地方裁判所平成29年9月26日
認容額:33万円

  • 原告 夫(自衛隊員)
  • 被告 男性(自衛隊員)
  • A  原告の妻(自衛隊員)

→ 平成25年9月8日 原告と被告が婚姻
→ 平成28年3月18日 別居 Aが離婚調停申し立て

認定された事実関係

平成27年2月26日から翌日にかけて、原告との婚姻前にAと性的関係にあった被告との間LINEのやりとり(原告の主張によると、性的交渉をもつことを前提とした卑猥で具体的な性的プレイを念頭に置いた内容、被告がAに対し女子高生の制服を着ることを求め、その格好をしたAとの性交渉を遅滞と性的欲求を抱いていることを示すもの)が不法行為に該当するかが問題なりました。

裁判所の判断は、不貞行為の認定まではできないとしたうえで、次のとおり慰謝料を認定しました。

裁判所の判断

 不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると、原告主張の具体的事実について、その行為の態様、内容、経緯等に照らし、不貞行為に準ずるものとして、それ自体、社会的に許容される範囲を逸脱し、上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から、不法行為の成否を判断するのが相当である。

 被告が、Aとの間で、平成27年2月26日から翌日にかけて、LINEで別紙記載の内容を含むやり取りをしたことは争いがなく、その前後の部分(甲2の1)も併せてみると、やり取り①は、その内容からして、被告Y1とAが、従前、性的関係を有していたことを前提として、性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるものであり、やり取り②は、前日のやり取り①も踏まえると、被告Y1が、Aに対し、性交渉を求めるものであると認められる。

 そして、上記のように、従前、性的関係を有していたことを前提として、性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは、不貞行為には該当しないものの、その記載内容にも照らすと、これに準ずるものとして、社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ、婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから、被告Y1の上記行為は、原告に対する不法行為を構成すると認められる。

③決定的ではないが疑わしい複数の証拠がある事案

東京地方裁判所平成31年2月26日(離婚後、夫が妻に対し慰謝料を請求した事案)
認容額 80万円

  • 原告 夫
  • 被告 妻
  • A  被告の同僚・既婚者

→ 平成18年3月27日、原告と被告が婚姻
→ 子供二人が出生
→ 平成27年6月19日 被告が子らを連れて別居
→ 平成29年10月6日 原告と被告とが裁判離婚

認定された事実関係

興信所の報告書によると、平成27年1月6日、被告とAが日光に旅行に行き、腕を組むなど親密な行動をし、別れ際には抱き合うなどの行為がありました。また、被告は、手帳に、Aとキスや性行為をしたことを窺わせる記載をし、Aに対する愛情表現と受け止めることができる記載をしていました。

裁判所は、不貞行為を認めるに足りる証拠はないとしながらも、下記の通り、妻である被告に対し、慰謝料の支払いを命じた。

裁判所の判断

 前記(1)のとおり、性交又は性交類似行為の肉体関係という意味での不貞関係を認めることはできないが、前記(1)アの本件期間における被告らの交流、接触(以下、単に「被告らの交流、接触」という。)は、被告が、原告の知らないところで、異性であるAと、就職活動の相談とはいえない程度に相当な頻度で会い、相当程度親密な行為をしていることをうかがわせるものであり、原告にとって、それを知れば、被告らの親密さに対する疑念、不快感や嫌悪感を抱かせるものであるということができる。

 したがって、被告らの交流、接触は、原告と被告との間の婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性のある行為であるということができる

 よって、被告らの交流、接触は、不貞関係と同視し得る関係にあったといえ、原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであり、不法行為に当たるということができる。

(略)

 被告らの交流、接触後、原告及び被告は、婚姻関係解消により、その状況を打破しようという蓋然性のある具体的な行為をしている。

したがって、被告らの交流、接触を契機に、原告と被告との間の婚姻関係は修復不可能な程度に破綻したということができるから、被告らの交流、接触は、原告と被告との婚姻共同生活の平和の維持という保護法益を侵害し、原告の被った精神的苦痛が一定程度認められる。