相談者さんのなかには、配偶者の不貞行為が発覚した際に、不貞相手との間で交わした誓約書や合意書を持参される方がいらっしゃいます。
かかる合意書のなかで、再度の不貞行為の禁止や接触禁止条項を定め、これらに違反した場合には、違約金を支払う旨の条項が盛り込まれているのをよく見かけます。
これは、一般的に民法420条3項の損害賠償額の予定を定めたものだと解釈されるところ、過剰に高額な違約金を定めた場合には、公序良俗に反することを理由に無効とされてしまうことがあります。
再度の不貞を抑止するという意味では、なるべく高い違約金額を定めたいところですが、いざ違反された場合に合意が無効と判断されてしまう事態は避けなければなりません。
この点について、参考となる裁判例をいくつかご紹介します。
令和2年3月15日
1度目の不貞行為について55万5555円を支払う
再度の不貞行為がなされた場合は、被告は原告に対し、不貞行為1回あたり100万円を支払う
被告は、Aさんと、令和2年3月15日(本件合意書作成日)から同年10月4日の間に6回の不貞行為を行った
合意の内容は公序良俗に反しない
被告は原告に対し、不貞行為6回分の違約金600万円を支払え
以下、抜粋
その内容が趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価できる場合など公序良俗に反する内容の場合には無効となる余地がある。
本件条項の趣旨目的は、被告によるAとの再度の不貞行為を抑止することが主たる目的であって、過当な金銭を取得することが主たる目的であるとは認められず、
不貞行為1回あたり100万円という金額が、その趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできない。
確かに、本件条項は、短期間に不貞行為が多数回繰り返された場合には損害賠償額が高額に上る可能性があり、事案によっては、
本件条項の趣旨目的に照らして著しく過大な金額であるとの評価を受ける余地がないではないが、本件違反行為は、令和2年3月15日(本件合意書作成日)から
同年10月4日(本件違反行為が発覚した日)まで、半年以上に渡って繰り返されたものであること、本件違反行為の結果、Aは父親が被告である可能性の高い子を妊娠するに至り、
Aの内心において原告との婚約関係の解消も検討していたこと、原告とAは最終的には結婚するに至っているが、Aは本件妊娠に係る子を堕胎しており、
本件違反行為が原告とAの婚約関係に与えた影響は大きいものであったといえることを踏まえると、本件違反行為による不貞行為の回数が6回であり、
損害賠償額が600万円になるとしても、本件条項の趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできず、公序良俗に反して無効であるということはできない。
令和2年2月13日
原告夫に、プライベートで電話、メール、ラインその他のSNSなどの手段を用いて一切連絡しないこと、面会しないことを約束する
上記接触禁止条項に違反した場合には、500万円を支払う
令和3年5月上旬、原告夫の自宅の別居先の合鍵を借り受け、アパートに出入りして荷物を搬出した
令和3年5月5日、原告夫婦が別居
違約金条項のうち、150万円を超える部分は、著しく合理性を欠き、公序良俗に反し無効である。
なお本判決では、上記のとおり、違約金条項に基づく支払いは150万円に留まりましたが、別途、不貞慰謝料250万円、興信所の調査費用の一部100万円、弁護士費用の一部25万円の支払いが認められています。
以下、抜粋
本件違約金条項は、本件接触禁止条項の違反について違約金を課すものであるところ、違約金は損害賠償額の予定と推定されるから(民法420条3項)、
その額については、本件接触禁止条項が保護する原告の利益の損害賠償の性格を有する限りで合理性を有し、著しく合理性を欠く部分は公序良俗に反するというべきである。
本件違約金条項による違約金額500万円は、被告が原告夫と接触するだけで、同額もの多額の金員の支払義務を負わせるものであり、被告が原告夫との接触にとどまらず、
不貞行為に及んだ場合に一般に認められる慰謝料額と比較すると、過大と評価せざるを得ず、被告が自ら本件誓約書に住所を記載して署名捺印したという事情があるとしても、その内容に客観的な合理性は認められない。
そして、本件接触禁止条項に違反して、被告が原告夫と接触した場合の慰謝料額として合理性を有する金額は、履行確保の目的が大きかったことを最大限考慮しても、150万円が相当である。
そうすると、本件違約金条項のうち、150万円を超える部分は、著しく合理性を欠き、公序良俗に反し無効である。
今後、Aに会うことはもちろん、一切の電話・メール・手紙・面会等で連絡をとることはしない。職務上においても必要最小限以外のコンタクトをとらないことを約束する
上記接触禁止条項に違反した場合には、別途違約金として1000万円を支払う
メールをやり取りしたり、約1か月半の間、継続的に不貞行為を行った
違約金条項のうち、150万円を超える部分は、著しく合理性を欠き、公序良俗に反し無効である。
なお、本件では当初の不貞についての慰謝料150万円とは別に、再度の不貞行為についての慰謝料が200万円と認定されていますが、そのうち150万円については、上記の違約金条項違反150万円で補填されるとし、その余の50万円についての慰謝料が認められています。
以下、抜粋
本件違約金条項は、面会・連絡等禁止条項の違反について、違約金を課すものであると認められるところ、違約金は損害賠償額の予定と推定されるから(民法420条3項)、その額については、面会・連絡等禁止条項が保護する原告の利益の損害賠償の性格を有する限りで合理性を有し、著しく合理性を欠く部分は公序良俗に反するというべきである。
そこで検討すると、面会・連絡等禁止条項は、被告にAとの不貞関係を確実に断ち切らせ、原告の精神的安定を確保し、Aとの婚姻関係を修復するという正当な利益を保護するためのものであって、
その目的は正当であると認められる。そして、原告本人の供述によれば、原告としては、面会・連絡等禁止条項の履行を確保することが、本件違約金条項を定める大きな目的だったことが認められるが、
上記正当な目的を有する面会・連絡等禁止条項の履行を確保するために、その違反行為に違約金を定めることも、上記目的を達成するための必要かつ相当な措置であると認められる。
しかしながら、本件違約金条項による違約金額1000万円は、メールや面会等による接触にとどまらず不貞関係にまで至った場合に認められる損害額
(後記4(3)のとおり)に照らすと、損害賠償額として著しく過大であるというほかない。
なお、原告本人の供述によれば、原告が本件において違約金の額を1000万円と設定したのは、原告において事前にインターネットで調べたところ、慰謝料の2倍から3倍を違約金として定めるのがいいと書かれていたからである。
しかしながら、慰謝料額が500万円であることにも、違約金の額がその2倍ないし3倍であることにも法的根拠はなく、本件の違約金額の設定方法にも合理性は認められない。そして、
面会・連絡等禁止条項に違反してAと面会したり電話やメール等で連絡をとったりした場合の損害賠償(慰謝料)額は、その態様が悪質であってもせいぜい50万円ないし100万円程度であると考えられるから、
履行確保の目的が大きいことを最大限考慮しても、少なくとも150万円を超える部分は、違約金の額として著しく合理性を欠くというべきである。